• 2026/08/06 06:30 掲載

融資も運用も「AIにお任せ」で何が起きる?銀行員に残された“超重要な仕事”とは

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「開発中のAIが隔離環境を抜け、別企業へ侵入した」──OpenAIの発表は、フロンティアAIがもはや補助ツールではなく、自ら分析し行動する主体になりつつあることを印象づけた。AI活用の波は、金融の世界にも及びつつある。AIは、金融機関の与信審査や市場運用(投資・資産運用)の業務を、より深く、より速く、より動的なものへと変えていく。財務情報や市場データの収集・分析にかかる時間や人件費が大幅に下がれば、これまで採算が合わず見送られてきた案件や投資判断も、合理的な選択肢となるかもしれない。こうしてAIは、金融機関の競争条件そのものを書き換え始めている。そうした中で、AI導入の遅れは、やがて競争力の差となり、経営の差となって表れる。今回は、銀行の生死を分ける構造変化を解説する。
執筆:NTTデータ経営研究所 マネージャー 小西 祐輔

NTTデータ経営研究所 マネージャー 小西 祐輔

NTTデータ経営研究所 金融政策コンサルティングユニット マネージャー。みずほ銀行にて主に企業再生支援、産業調査業務などに従事。その後、現職にて銀行業界向けコンサルティング業務、官公庁向け調査業務などに従事。主な著書に『国際金融規制と銀行経営 ―ビジネスモデルの大転換』(中央経済社)、『金融機関のための生成AI導入&活用入門』(近代セールス社)(ともに共著)。

なぜ今、「フロンティアAI」が金融業界を揺るがしている?

 昨今、フロンティアAIという単語が急速に広まっている。金融業界においては、直接的な契機は2026年の5月に金融庁と日本銀行が連名で発表した「『フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応』に係る要請について」という文書といえる。この文書自体は直接的にはサイバー攻撃のリスクとその対処について記したものであるが、フロンティアAIは本連載のテーマである金融機関の意思決定にも大きく関わる存在である。

 そもそもフロンティアAIとは、何なのか。フロンティアAIとは、その時点で最も高度なAIモデルを指す言葉であり、具体的な単語モデルを指し示す言葉ではない。現時点ではAnthropic社のClaude Mythosなどがその代表である。Claude Mythosは自律的なAIエージェントとして、システムの脆弱性を発見・検証し、攻撃コード生成まで行えてしまうことで注目を浴び、悪用された場合のリスクに鑑み、米国政府が安全保障上の懸念から輸出管理対象に指定するなどの動きを見せた。金融庁と日本銀行の上記の文書も、この特徴を念頭に書かれている。

 しかし、フロンティアAIの本質的に最も重要な特徴は、サイバー攻撃能力ではなく、その自律性である。上で述べたように、フロンティアAIとは、その時点で最も高度なAIモデルを指す言葉であり、3年後には恐らく別のAIがフロンティアAIと呼ばれていると思われるが、その自律性、エージェントとしての能力は現在と比べ一層高まっていることはほぼ確実であるといえる。なぜなら、業界としては、(各社の定義にはズレが存在するものの)AGI(人工汎用知能)を通してASI(人工超知能)を目指すその方向性は一致しており、いかにAIに自律性を持たせるかはその本丸だからである。
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AIエージェントは「与信審査」や「市場運用」をどう変えるのか?

 フロンティアAI、特にエージェント機能を念頭に置いて考えた場合、これらの導入によって金融機関の業務はどのように変わるだろうか。いくつか場面設定を挙げて示していくこととしたい。

 まずは与信審査の場面である。従来であれば、財務3表の数字と、経営者の資質や資金使途の妥当性などの情報をもとに判断を行っていた。

 レバレッジド・バイアウト(LBO)やプロジェクトファイナンス、一部大企業の大型融資などでは財務モデリングと呼ばれる、詳細な財務3表の将来予測を実施した上で融資判断しているが、主に地方銀行の主戦場となる中小企業融資では、たいていの場合そこまでの詳細な予測は行っておらず、たとえば「業績が横ばいで推移した場合に返済原資がどれくらい蓄積するか」など、将来予測は簡易的なものにとどまるのが実態である。

 これは、稟議を起案する営業店の行職員が財務モデリングを行う訓練を全員は受けていないこと、また、そもそも少額の融資で毎回財務モデリングを行ってまで与信検討するのは採算が合わないという事情もある。

 しかし、AIエージェントが導入されれば、融資先企業の定量情報・定性情報からキードライバーを見つけ出し、財務モデルを構築することは難しいことではない。その点で、AIの活用により、従来は検討できていなかった深度での検討を加えた上で、行職員が結果を確認、ときに補正した上で最終的な与信判断を下すという流れに変わっていくだろう。

 次に市場運用・ポートフォリオ管理の場面を考えてみたい。現在、多くの銀行の場合、行内ないしは傘下のシンクタンクのエコノミストの予測をもとに、行内で何パターンかの経済シナリオを予測し、それに基づいて市場売買を行っている。

 おおむね、ベースシナリオ、景気改善/悪化時のアップサイド、ダウンサイドシナリオ、ワーストシナリオを用意する例が多いのではないか。各シナリオを作成するのに一定の時間を要するため、見直しは年数回の定例的な見直しのほか、イベント発生時は臨時で見直しをかけるというのが一般的な姿である。

 これがAIエージェントの導入により、検討可能なシナリオ数が大きく増加することになる。加えて、従来は静的なシナリオと言わざるを得ないものが、AIであれば、行内外の情報をもとに動的にシナリオを検証し修正していくことが可能となる。注意すべきテールリスクの把握もより容易になるだろう。 【次ページ】人間から「意思決定」は奪われる? 銀行員に残された“真の価値”
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